【5】民間会社にとっての水族館|日本の水族館をめぐる論点2019




この連続記事は2019年の6月にまとめたもので、日本の水族館に関する様々な話題を「論点」として13のテーマで紹介します。

普段楽しく利用する水族館のことを、ちょっとだけ深く考えてみるきっかけになれば幸いです。

民間会社が運営する水族館

前回の記事では、水族館の歴史をたどりながら、近年は民営水族館による新たなスタイルの水族館が登場していることをご紹介しました。

第5回は水族館を経営する代表的な事例を参考に、民間企業にとって水族館はどのように位置付けられているか、について考えます。

電力会社や映画会社など様々なジャンルの会社が関わってきた民営水族館ですが、業界団体の「JAZA」に平成29年度度末時点で加盟していた59の水族館のうち、民営の水族館は23とやや少数派で、非加盟の比較的小規模な水族館には民営が多く、日本全体では民営・公営がちょうど半々くらいという感覚です。

なお、この記事は株式会社サンシャインエンタプライズが運営していた「いきものAZ」内の「いきものがたり」にて連載記事として掲載頂いた内容を、一部変更した記事です。

前回記事は下記をご参照ください。

【4】水族館の歴史とマーケティングの変化|日本の水族館をめぐる論点2019

2018年12月25日

ポイントその1:かに道楽が水族館経営!?

“鳥羽水族館(三重県)”や“うみたまご(大分県)”のように、水族館事業に専念している会社もあるのですが、“城崎マリンワールド(兵庫県)”や“沼津港深海水族館(静岡県)”のように、水産や観光など水族館以外の事業も行う会社が水族館を運営することがあります。

特に、城崎マリンワールドを運営する「日和山観光株式会社」は、ホテルやゴルフ場の経営なども行なっており、皆さんも耳にしたことがある経営学の言葉「多角化」の典型例と言えます。

こちらの会社、実はあの有名な「かに道楽」を運営する会社のグループ会社で、水族館には大きなカニのオブジェが・・・あるわけではないのですが、多くの海獣類を中心とした展示が特徴です。

城崎マリンワールドは、そのルーツを遡ると“瀬戸日和山遊園水族館”という、なんと1934年からのとても長い歴史を持つ水族館です。

ポイントその2:沿線を元気にする

民営水族館の代表的な例といえば、鉄道会社によるものです。

水族館を通じて自然や生き物について知ってもらいたいという目的はもちろんのこと、鉄道会社にとっては、人気のある水族館のおかげで鉄道の利用者が増えたり、沿線の価値が上がったりすることは、本業である鉄道事業にもプラスの影響が期待できます。

経営学の言葉では「シナジー効果(相乗効果)」という言い方もしますね。

例えば、「南知多ビーチランド(愛知県)」は、「めいてつ」の愛称で親しまれている名古屋鉄道の「名鉄グループ」が運営しています。名鉄も戦前から水族館に関わっています。

南知多ビーチランドの最寄駅は名古屋鉄道の「知多奥田駅」で、知多半島の重要な観光地の一つとなっています。

ただし、他の鉄道会社が運営する水族館と同様に、展示の内容自体は鉄道とは関係がなく、沈没船をイメージしたような大きな船のオブジェが特徴的な水族館となっています。

また、鉄道会社の中でも特に代表的なのは西武鉄道の「西武グループ」です。

西武グループの「株式会社横浜八景島」は、「横浜八景島シーパラダイス(神奈川県)」や「マクセルアクアパーク品川(東京都)」などの複数の水族館を運営していますが、水族館経営という点ではさらに特徴的な点があります。

例えば、「仙台うみの杜水族館(宮城県)」は震災復興の想いをこめて地元企業を中心に複数の会社によってお金を出し合って作られましたが、運営にも横浜八景島が関わっており、自前の水族館を自分で運営する、というやや特殊な経営方式の新しいモデルとなっています。

また、2018年に新潟県の上越市が「上越市立水族博物館(新潟県)」をリニューアルして「うみがたり(新潟県)」をオープンしましたが、公営施設の運営について民間のノウハウを活かす目的で作られた「指定管理者」という制度を使って、横浜八景島が運営を受託しています。

こうした指定管理の仕組みは全国各地にありますが、離れた地域に本拠地がある会社が全国展開するのは、横浜八景島の特徴と言えます。

さらに、2020年には台湾の桃園市に新しく作られる水族館の運営を予定するなど、日本の水族館としては初めての海外展開にも挑戦しており、民営水族館ならではの新たな展開に注目が集まります。

ポイントその3:街づくりと水族館

鉄道会社と同様に本業との相乗効果が期待されるのが、不動産関係の会社です。有名なところでは、CMでもお馴染みの「オリックスグループ」です。

オリックス不動産は、「すみだ水族館(東京都)」や「京都水族館(京都府)」といった2010年以降に新たに誕生した大型水族館を複数運営しており、民営水族館を中心とした水族館新時代の代表的な会社と言えます。

このうちの一つ京都水族館では、「環境教育の場を提供する」との考えで、多くの人々に生き物や自然環境に向き合う機会を提供する、と掲げています。

京都を流れる鴨川に生息し、特別天然記念物にも指定されているオオサンショウウオをモチーフにしたデザインが随所に見られるなど、京都の自然を感じられるような展示が特徴的です。

京都水族館のある京都市は、内閣府が進める「環境モデル都市」に認定されており、京都水族館を通じて街自体も環境に優しいイメージが広がることは、社会にとっても不動産会社にとっても良いことです。

逆に言えば、もしもこうした趣旨に反するような運用をしてしまうと、社会から受け入れられなくなるとも考えられますね。

まとめ

このように、多くの民営水族館では、広い意味での採算性や他事業との関係を意識して経営されています。

これからは、いきものの命を扱う施設として、「楽しい」だけではない水族館の意義をどれだけ明らかにできるかが課題であると考えます。

いきもの好きの皆さんも、新たな時代の中で民営水族館がどのような展開をしていくのか、ぜひ注目して頂きたいと思います。

では、民営水族館とは事情が異なる公営水族館はどのような課題に直面しているのでしょうか。次回は、公営水族館の特徴などに注目していきます。

【6】担当部署から考える公営水族館|日本の水族館をめぐる論点2019

2019年2月16日

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