日本の水族館をめぐる論点2023について
この連続記事は、水族館を経営的な観点から5つのテーマを「論点」として設定し、考察・紹介するものです。
普段楽しく利用する水族館のことを、少しだけ深く考えてみるきっかけになれば幸いです。
なお、この内容はほぼ同じ内容をツイッターでもご紹介しており、サイトでの読み物用に若干の加工をしています。
論点2:意義が薄まる来館者の数
まず、水族館の利用者(来館者)の現状はどのようになっているでしょうか。
水族館の来館者は2010年代中盤から年間3500万人の規模となっていましたが、コロナ禍の大幅な来館者数の減少により、コロナ禍では半分程度にまで落ち込んでいます。
(コロナ禍の影響考察はこちらも参照 https://aquarium-japan.jp/covid19-2020/)
ちなみにこの来館者数の統計はJAZAという動物園水族館の「業界団体」に加盟する水族館に限定されており、昨今はこれに加盟していない浅虫水族館、仙台うみの杜水族館、新江ノ島水族館、大洗水族館など、全国的にも知名度のある水族館が含まれなくなっている、という問題もあります。
これはJAZAが追い込み漁で捕獲したイルカの導入を禁じたいわゆる「イルカ問題」をきっかけに脱退が相次いだ、という指摘もありますが、近年は、魚津水族館、竹島水族館、ゴビウスなどイルカとは無関係の施設の脱退も続いており、「イルカ問題」だけの問題ではない、と理解すべきでしょう。
ただし「イルカ問題」は今後も水族館業界にとってイルカの飼育・展示を継続することの是非を経営的にも問い続け、しながわ水族館のような撤退の選択を後押しすることも想定されます。
無論、本質的には、各水族館が鯨類に限らず全ての生き物について飼育・展示の意義を内外へ明確にしていく必要があります。
JAZAにはアトア、カワスイ、シーライフ名古屋など新興の水族館が加盟していますが、上記の通り100万人規模の大型水族館が含まれていない統計になっていることは、その網羅性や継続性の観点などから来館者数の全容は掴みにくくなっており、今後はさらに数より質が意識された議論が大切になっていくことが示唆されます。
そうした前提はありつつ、絶対的な接触機会の規模は水族館の意義を考える上で不可欠な要素で、必ずしも「勉強」を目的としない3000万人にメッセージを伝える機会があることの重要性を見失うべきではないし、水族館の社会的な影響力を推定する指標として来館者数が引き続き大切であることは変わらないとも考えられます。
コロナ禍ではインターネットを通じたイベント・発信・サービスなどが大きく増え、「来館」をしないでも水族館を「利用」できる仕組みも広がりました。
まだその内容や事業性などは発展途上ではあるものの、こうしたコミュニケーションも、来館者数には現れない効果の一つと言えます。
接触による効果に関して、水族館の多い日本における生物や自然環境への意識は遅れている、だから水族館に意味は無い、という論法は拙速だと思います。
水族館だけがこれらの啓発の責任を担っているはずもなく、また、過去に機能を発揮しきれてこなかったことは将来的にも存在意義が無いことも意味しないからです。
日本の社会・経済活動が自然環境負荷について国際的な比較において単純に「遅れている」かはそもそも評価が難しいところですが、少なくても水族館が参考にすべき手法が欧米の水族館にあることは事実であり、発信内容などに課題が無いとは言えないわけで、より良いあり方を前向きに考えていくことが望まれます。
来館者の「数」で水族館を評価することには限界もあり、来館者に及ぼす影響やサービスの「質」などで水族館の意義などを考えるべき時代になりつつあります。
そこで次回は、SNSやメディアとの関係で度々話題にもなる水族館における情報発信のあり方、情報コミュニケーションの論点を考えていきたい。
【参考】過去の論点(2019)
当サイトでは、2019年にも水族館をめぐる論点を13テーマにてご紹介していますので併せてご参考にしてください。
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