【11】水族館の「半分」は観ることができない?|日本の水族館をめぐる論点2019




この連続記事は2019年の6月にまとめたもので、日本の水族館に関する様々な話題を「論点」として13のテーマで紹介します。

普段楽しく利用する水族館のことを、ちょっとだけ深く考えてみるきっかけになれば幸いです。

舞台裏の設計から考える水族館

皆さんは水族館全体の面積のうち、実際に観ることができるのは全体の何%くらいだと思いますか??

第11回は水族館の物理的な構造などから示唆されることについて考えます。

なお、この記事は株式会社サンシャインエンタプライズが運営していた「いきものAZ」内の「いきものがたり」にて連載記事として掲載頂いた内容を、一部変更した記事です。

前回記事は下記をご参照ください。

【10】水族館では水槽以外の「サービス」も重要|日本の水族館をめぐる論点2019

2019年3月25日

ポイントその1:水族館の半分を占める非公開領域

水族館の館内には、大きく分けて公開領域(目に見える範囲)非公開領域(目に見えない範囲)とがあります。

今回の記事では、少し古いですが2008年頃のデータを参考に、20館の水族館を対象とした分析結果に基づき簡単にご紹介します。

このときの調査では、水族館(20館の平均)の公開領域は48%、非公開領域52%で、なんと水族館の半分以上の場所は利用者からは目で見ることができないスペースということが分かりました。

「非公開領域」の主なものは、予備水槽や濾過装置といった設備・機械に関する部分が一番大きく、その他に、スタッフが移動するためのキーパースペースや会議室などがあります。

いきものの体調を整えたり、第9回の記事でご紹介したような繁殖活動などをしたりするために、いかに水族館の裏側で様々なことが行われているかが数字にも現れていますね。

【9】水族館はノアの箱舟になれるか|日本の水族館をめぐる論点2019

2019年2月16日

また、「公開領域」は通路や飲食・販売といった皆さんが自由に歩き回れる部分であり、水族館のメインとも言える「展示水槽」の面積自体は実は全体の10%程度に過ぎません。

ポイントその2:面積という視点から見えてくること

水族館の面積という視点からは、2つのことが言えると考えています。

一つは、水族館にはまだ知られていない側面がたくさんあることを示唆しています。

お客さんにとって「見えていない」ことは「存在しない」ことと同じになりがちです。

飼育・展示のためにスタッフの皆さんが行っている様々な努力や、予備水槽での治療・繁殖の様子などは、表現の方法によっては水族館の意義などをダイレクトに感じられますが、見えない領域で行われることがほとんどで、普通にしていては分かりません。

もちろん、非公開領域にはそのまま観ても楽しめない部分も多いですが、そこでの情報を分かりやすく伝えるために見直すことで「コンテンツ」として発展できる可能性もあると思います。

もう一つは、水族館の「生産性」という考え方です。

例えば、他の水族館と比べて来館者や売上が少ない場合でも、面積あたりで考えると多いということもあります。

経営の効果や効率を考える上でも、単純なトータルでの比較ではなく面積などの割合という視点は重要です。

ポイントその3:3つのタイプの水族館構造

水族館の設計は、大きく分けると以下の3パターンがあります

  1. 単独設立
  2. 複合設立
  3. 施設内設立

「①単独設立」とは、水族館自体が一つの建物で成り立つもので、大半の水族館はこのタイプです。

第2回の記事でもご紹介の通り、水族館は来館者の減少とリニューアルを繰り返すビジネスモデルですが、このタイプの水族館の場合、新たな建物を建てずにコンテンツ開発などのリニューアルをすることが多いです。

【2】水族館のリニューアルの効果を分析|日本の水族館をめぐる論点2019

2018年12月11日

例えば“新江ノ島水族館(神奈川県)”も、イルカショーでの演出の変更や、第2回の記事でご紹介したようなプロジェクションマッピングの活用など、既存の施設内での創意工夫で集客に成功してきました。

「②複合設立」は、“横浜・八景島シーパラダイス(神奈川県)”や“美ら海水族館(沖縄県)”のように複数の施設から成り立っており、建物の構造ごとリニューアルすることもできます。

鴨川シーワールド(千葉県)”では、建物がバラバラに老朽化していくことをうまく利用し、先行した海獣類を中心とした展示エリアの引っ越し跡地に、まるで海に潜っていくような感覚を味わえる高低差が特徴的な「トロピカルアイランド」を建設しました。

生物の大きさや時代に合わせて演出方法を大きく変化させたり、研究や繁殖に力を入れるための投資をしたりする時には、建物ごと新しくするような根本的な変更が可能な複合施設タイプは便利かもしれませんね。

なお、「③施設内設立」は、商業施設サンシャインシティの一部である“サンシャイン水族館(東京都)”や、博物館内の一つのコーナーである“琵琶湖博物館(滋賀県)”などが該当します。

関連施設との関係から単独設立の場合には無いような制約条件が多い点は弱みかもしれませんが、集客やイベントコラボなど、施設同士の相乗効果を利用できる点は強みになることもあると言えそうです。

ポイントその4:背景を生かす

建物の構造に限界がある場合、「建物の外」にある背景を活用するという方法もあります。

例えば“うみがたり(新潟県)”では、イルカショー会場となるプールの水面と日本海が見事に一体化するような景色を演出するため、設計の段階から背景の活用が見込まれていました。

他にも背景を活かした展示としては、“京都水族館(京都府)”のイルカショーでは、京都ならではの五重塔や新幹線などを遠くの背景としながら、勢いよくジャンプするイルカ達のパフォーマンスを楽しむことができます。

水族館のサービス設計を考える上での大きなテーマは、こうしたイルカに関する話題です。

どこの水族館でも人気の高いイルカショーですが、多くの水族館で観られるようになったことから、その差別化の方法も多様化しています。

次回は、様々なタイプのイルカショーから、これからの方向性を考えていきたいと思います。

【12】日米の事例から考えるイルカショーのこれから|日本の水族館をめぐる論点2019

2019年3月26日

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