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日本の水族館をめぐる論点2019ついて
この連続記事は2019年の6月にまとめたもので、日本の水族館に関する様々な話題を「論点」として13のテーマで紹介します。
普段楽しく利用する水族館のことを、ちょっとだけ深く考えてみるきっかけになれば幸いです。
水族館における「サービス」とは
水族館を利用するみなさんは、水族館に何を楽しみに来ていますか?
もちろん、水槽の中で泳ぐ魅力的ないきもの達の姿を楽しみたいという方が多いと思いますが、水族館の雰囲気自体を楽しむという方も少なくないと思います。
第10回は水族館の水槽以外のサービス全体について考えます。
なお、この記事は株式会社サンシャインエンタプライズが運営していた「いきものAZ」内の「いきものがたり」にて連載記事として掲載頂いた内容を、一部変更した記事です。
前回記事は下記をご参照ください。
ポイントその1:サービスを補うサービスとは
水族館を利用するお客さんの基本的な満足度は、水槽展示やショーパフォーマンスといった水族館の「コア・サービス」によって決まります。
しかし、どんなに良い展示だったとしても、息苦しいような混雑や通路にゴミが散らかっていると、あまり良い気分にはなりませんよね。
逆も然りで、展示自体は一般的でも、館内全体の雰囲気がよければ心地良さを感じると思います。
一番分かりやすいのが、まるで山の中で川のほとりを歩いたり、ジャングルに迷い込んだりしたかのような気分が味わえる空間としての雰囲気作りです。
特に大型の水族館では、自然光を活かしたリアルな演出も魅力的です。
こうした展示以外のサービス全体を、専門用語で「補完的サービス」と呼びます。
次回の第11回記事で詳しくご紹介予定ですが、水族館における「展示水槽」のスペースは私たち利用者が目にすることのできる範囲の20%程度ですので、水族館の中で展示以外の部分から受ける印象は想像以上に重要です。
屋内の通路では、イラストなどを活用する方法もあります。
例えば、“マリンワールド海の中道(福岡県)”では、暗い通路にブラックライトで明るく光るイラストが大きく描かれており、歩きながらワクワクするような異世界の雰囲気を感じられます。
ポイントその2:五感で楽しむ
少しずつ事例も増えて来たのが、目で観る楽しさだけでなく、音や香りを使って、五感で感じることができる演出です。
例えば“サンシャイン水族館(東京都)”では、フロアの雰囲気に合わせたBGMに加えて、館内にアロマの香りが漂っており、癒しの効果を後押ししてくれます。
水辺の環境をイメージしたエリアで見られる霧のようなスモークを見つめながら、耳を澄まし、鼻を利かせると、普段とはちょっと違った水族館の一面を感じられるかもしれません。
香りを用いた工夫は、こうした雰囲気作りだけでなく、水族館としての課題を解決する目的もあります。
“すみだ水族館(東京都)”では、たくさんのペンギンを完全屋内で飼育しているため、臭いのトラブルへの配慮が欠かせません。
館内での独特の香りには、お客さんが不快に感じないための消臭対策としての意味合いがあります。
水族館では、こうした目に見えないサービスにも大切な役割があります。
ポイントその3:楽しみ方のコツを知る
水族館の経営という目線だと、チケット窓口での迅速な手続きや通路の広さ、さらにはスタッフの態度などもお客さんの満足度に影響する大事なサービスの一環ですが、ここではもう少しいきものに関係する部分をご紹介します。
多くのお客さんは水槽の中の魚の種類・名前などは分からないため、解説パネルが唯一の手がかりとなります。
しかし、水族館では突然仲間入りするいきものがいるなど、必ずしも名前が分かるパネルが用意できるわけではありませんし、そもそも展示されているいきものの名前を知ることに楽しさを感じる方ばかりではありませんよね。
そんな中、“葛西臨海水族園(東京都)”では、「いきものを解説する」というよりは、「いきものを観るときのポイント」が書かれたパネルが数多くあります。
これにより、水槽内のいきもの達のどんな部分に特徴があるのか、どんな動きに注目すると面白い動きが観られるかなど、楽しみを自ら発見することをサポートしてくれます。
いきものに詳しくなりたい、という直接的なニーズは少ないかもしれませんが、展示を観ながら自分自身で新たな発見をする体験ができるというところが、テーマパークなどでは味わえない知的好奇心をくすぐってくれる水族館ならではの魅力だと思います。
ポイントその4:建物自体も印象の一つ
最後に、水族館の雰囲気やイメージを印象付ける大きな要素として、「外観」が挙げられます。
他の施設と併設されるような水族館では重視されませんが、単独で建設される場合には、独特の形をした水族館もよく見かけますね。
これは、屋内が基本となる水族館が、動物園と異なる点ですね。
特に有名なのは、赤と青の配色が目立つ、奇抜なデザインの“海遊館(大阪府)”でしょうか。
それぞれの色が海・空・火を表しており、テーマとなっているリング・オブ・ファイア(環太平洋火山帯)は、巨大な太平洋水槽を中心にした展示の設計思想にもなっています。
海外の水族館では、建物の構造自体が水族館のテーマを表現したデザインとなっており、そこに寄付者の名前を記すような仕組みもあるなど、外観一つを例にしても様々なポイントがあります。
このように、水族館のサービスは建物の設計自体とも密接な関係にあります。
そこで次回は、意外に具体的な数字を知る機会の少ない、施設の構造から見た水族館の姿をご紹介します。
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