【12】日米の事例から考えるイルカショーのこれから|日本の水族館をめぐる論点2019




この連続記事は2019年の6月にまとめたもので、日本の水族館に関する様々な話題を「論点」として13のテーマで紹介します。

普段楽しく利用する水族館のことを、ちょっとだけ深く考えてみるきっかけになれば幸いです。

イルカショーのパターンと未来

水族館の代名詞ともなっているイルカショー。

子供だけでなく大人でも感動する力強いイルカたちの動きは、全国各地の水族館で様々な工夫が行われています。

第12回は海外の事例も交えながら、イルカショーの演出について考えます。

なお、この記事は株式会社サンシャインエンタプライズが運営していた「いきものAZ」内の「いきものがたり」にて連載記事として掲載頂いた内容を、一部変更した記事です。

前回記事は下記をご参照ください。

【11】水族館の「半分」は観ることができない?|日本の水族館をめぐる論点2019

2019年3月25日

ポイントその1:日本初のイルカショー

色々なタイプのイルカショーを考える前に、少しだけ歴史を振り返ります。

イルカやクジラの仲間を総称して鯨類と呼びますが、その大きさや生態の違いから、鯨類を飼育するためには、魚類などの飼育とは違った特に特別な施設やノウハウなどが必要となります。

そんな鯨類を日本で初めて飼育した水族館はどこだったかご存知でしょうか?

記録によれば、かつて静岡県にあった「中之島水族館」、現在では“伊豆・三津シーパラダイス(静岡県)”として知られる水族館で、1930年には鯨類の飼育が行われていたとされています。

では今回の本題、日本で初めてイルカショーを行なった水族館はどこでしょうか?

それは、現在の“新江ノ島水族館(神奈川県)”の前身とも言える「江ノ島マリンランド」と言われており、1957年に日本初のイルカ専用の水族館として建てられた地上3階・地下1階の大きなドーナツ型の建物は、イタリアの有名な観光地「コロッセオ」のような形をしていました。

今でこそ一般的になったイルカショーですが、当時としては斬新なチャレンジで、先行していたアメリカの水族館での演出を参考にしたとされています。

この頃から、バンドウイルカやハナゴンドウといったお馴染みの鯨類が活躍していたそうです。

ポイントその2:出演者から分けたイルカショーのタイプ

では、現在の水族館ではどのようなタイプのイルカショーがあるのでしょうか。

技の種類などは個体によっても差が出てくるため、今回はショーの演者に注目してタイプ分けしました。

最もスタンダードなのが「①イルカのみのパフォーマンス」です。

しながわ水族館(東京都)”や“うみたまご(大分県)”のように、トレーナーは基本的にプールの外から指示を出しながら、パフォーマンスを演出します。

一方で、「②トレーナーと一緒にパフォーマンス」というパターンもあります。

アクアパーク品川(東京都)”や“うみがたり(新潟県)”では、トレーナーがプールに入り、イルカと一緒に技を繰り出すようなパフォーマンスを行う演出があります。

例は少ないですが、「③いきもの同士が一緒にパフォーマンス」というパターンもあります。

海響館(山口県)”ではイルカとアシカがお互いに指示を出し合って逆立ちやジャンプを披露し、“大洗水族館(茨城県)”ではイルカの上にアシカが乗ってプールを泳いで回るなど、種を超えたコミュニケーションの様子も窺えます。

ポイントその3:教育的な観点を重視したパフォーマンス

これからの水族館を考えた時に注目されるのが、イルカショーを通じた学び、いわゆる教育的な要素です。

例えば“海きらら(長崎県)”では、道具を使ってイルカの認知能力を紹介しており。

またイルカの生態に関するクイズを会場に投げかけ、実際のイルカの動きや姿を通じて答えを紹介するなど、パネルの文字を読む以上の印象付けが期待されます。

また、“城崎マリンワールド(兵庫県)”では、エンターテイメント性の強い大規模なショーとは別に、解説を重視したショー会場を用意した両面での展開が特徴的です。

日本ではまだ大きな社会的なテーマにはなっていませんが、海外では、イルカに対する考え方の違いなどから、ショーに反対する団体などの活動も盛んなため、解説などを強化した教育的な要素が重視されています。

水族館が「きっかけ」を提供するだけでなく、自然やいきものを守っていく仲間づくりをしていくためには、「楽しさ」を超えた知的好奇心をくすぐるようなパフォーマンスがより一層重要になっていくのではないでしょうか。

ポイントその4:海外でのショーの行方

これまでの記事でも基本的に日本の事例を中心にご紹介してきましたが、海外での鯨類のショーについてもごく一部ですがご紹介します。

アメリカの“シーワールド(カリフォルニア州)”では、さすがアメリカと思うような大規模なスケールでシャチのパフォーマンスが行われていますが、大きなスクリーンを使ってクイズが出題されたり、ショーを補完するような情報がたくさん表示されます。

ショーが行われている間はほぼずっと何らかの解説が行われており、シャチの生態をじっくり学べる内容となっています。

アメリカの手法を取り入れて始まった日本のイルカショーですが、今またアメリカをはじめとした世界での変化から得られるヒントがあるかもしれませんね。

ただし、このシーワールドのイルカショーでは音楽やダンスに合わせたパフォーマンスで盛り上がっており、「海外の水族館」と一言では語れないのが実態です。

ポイントその5:イルカショーがないと集客できない?

どのタイプのイルカショーも、それぞれがとても魅力的なコンテンツであり、イルカショーがなければお客さんを集めることが難しいとまで言われることがあります。

しかし、最新の2017年度における来館者数(JAZA加盟に限る)のトップ10水族館を見ても、実に4つもの水族館にイルカショーがありません。

水族館のマーケティング方法などがますます多様化する中で、様々な経営スタイルが展開されていると言えます。

そこで次回は、この連載企画の最終回として、水族館の経営を「マーケティング」の考え方で振り返り、水族館との関係の中で、いきもの達のために私たち一人ひとりには何ができるかを考えたいと思います。

【13】水族館を通じていきもの達のために何ができるか|日本の水族館をめぐる論点2019

2019年3月26日

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