【2】水族館のリニューアルの効果を分析|日本の水族館をめぐる論点2019




この連続記事は2019年の6月にまとめたもので、日本の水族館に関する様々な話題を「論点」として13のテーマで紹介します。

普段楽しく利用する水族館のことを、ちょっとだけ深く考えてみるきっかけになれば幸いです。

リニューアルで水族館の来館者数はどう変化するのか

前回の記事では、水族館の来館者を分析し、その全体像や季節性、地域性などについて紹介してきました。

第2回は個別の事例を中心に、水族館のリニューアル効果による来館者数の変化について考えます。

水族館は、生き物を「展示」することでお客さんを集めており、博物館や美術館が展示作品を定期的に替えているように、装飾や水槽の中の生き物を変更することで「展示」を変化させます。

しかし、それだけではお客さんが飽きてしまうので、数年ごとに大きなリニューアルを行います。

飼育している生き物たちのためにも、水族館の経営を持続可能なものにすることは重要であり、その基本はより多くのお客さんに来て頂くことにあります。

以下では、実際の事例から水族館のリニューアルによってお客さんの数がどのように変化するかをご紹介します。

前回記事は下記をご参照ください。

【1】水族館利用者の数や特徴を分析|日本の水族館をめぐる論点2019

2018年12月4日

ポイントその1:クラゲに特化した加茂水族館

まずは、ニュースなどでも度々取り上げられる有名な事例をご紹介します。加茂水族館(山形県)は、徹底してクラゲに特化した飼育・展示によって、大成功した事例として知られています。

しかし、意外と誤解されがちなのですが、加茂水族館がクラゲに特化する戦略へ転換した時期は早く、2010年にはすでにクラゲ種類で日本一、2012年にはギネス記録にも認定されています。

加茂水族館の来館者数が大きく増えたのは、2013年12月〜2014年5月末までの休館を経たリニューアル後で、2009年度〜2013年度には平均約24万人だった来館者数は2014年度には約68万人と3倍近くに大きく増加しました。

このリニューアルでは、建物面積も1.6倍に広がって展示数も増え、直径5mにもなる超巨大なクラゲ水槽「クラゲドリームシアター」が導入されるなど、コンテンツが一気に変わりました。

つまり、クラゲに特化という基礎が重要であったことは間違いないものの、大幅な来館者の増加には、やはり施設の投資やコンテンツの話題性などが不可欠と言えます。

また、その後の2015年度〜2017年度には連続して来館者数が減少しているのも水族館としては一般的な傾向です。

ポイントその2:立地を生かしたサンシャイン水族館

最近大きな話題となったリニューアルをした水族館といえば、「天空のペンギン」で水族館ファン以外にも幅広いファンの心を掴んだサンシャイン水族館(東京都)も外せません。

実際に来館者数という形ではどれくらいの影響があったのでしょうか?

サンシャイン水族館では、2010年9月〜2011年7月末にかけて行なったリニューアル以前には、90万人に満たない程度の来館者数となっていました。

まず屋外エリアを「天空のオアシス」としてガラッと変化させたこの2011年度リニューアルでは、2年連続で160万人超えと大きな効果が出ました。しかし、その後は4年連続で徐々に来館者数が減少し、2016年度には約125万人まで落ち込みました。

そこで!2017年7月に「天空のペンギン」を代表とする新たなリニューアルを実施したところ、この年度には約200万人と大きく来館者数を伸ばしました。一連のリニューアル前から換算すれば2倍以上の増加です。

このように水族館は、リニューアルのために一定の投資を行うことで来館者数が大きく伸び、そこからすぐに来館者数は減少し始め、また数年後に新たな投資を行う、という流れのビジネスモデルとなっています。

この10年間でも、アクアパーク品川(東京都)、うみがたり(新潟県)、宮島水族館(広島県)、マリンワールド海の中道(福岡県)など、たくさんの水族館がリニューアルを行い、大きく来館者数を増やしています。

その昔は、ラッコやウーパールーパーなど、生き物の珍しさなどが話題となって来館者数に影響を与えていましたが、最近の水族館は、単に珍しい生き物を導入するのではなく、解説を含む様々な展示の工夫などコンテンツの差別化が必要になっています。

生き物の魅力を引き出す展示の必要性がますます重要であると言えます。

ポイントその3:最新映像技術を使った新江ノ島水族館

最後に、休館などを伴わないリニューアルの事例も見てみましょう。

神奈川県の新江ノ島水族館は、目の前に湘南の海が広がり、夏の時期には特にたくさんの観光客が訪れます。

そのため、8月の来館者が最も多くなる典型的な夏型の水族館です。

2009年度〜2013年度には120万人〜130万人程度の来館者数で前後していた新江ノ島水族館ですが、2014年度の7月〜12月にかけて当時はまだほとんど実績の無かったプロジェクションマッピングのコンテンツを開始したところ、夜の時間帯を中心に実施期間中の月別の来館者数が前年対比で平均1.5倍と、大きく来館者数を増加させました。

その後2016年度まで時期や内容を変えながらコンテンツを継続し、2018年度までの3年間で年間の来館者数の平均は約180万人になっています。様々な要因の一つではありますが、新規コンテンツの効果が数字で現れたと言えます。

しかし、新江ノ島水族館では、2018年度には限られた期間・コーナーを除いて例年のようなプロジェクションマッピングを実施していません。その背景には、派手な演出で集客を続けるのでは無く、より水族館らしい工夫で新たなチャレンジをしようという意思があるのかもしれません。

次回は、この記事でも何度か登場した「話題性」という観点から、水族館の情報発信に注目してみたいと思います。

【3】水族館は「インスタ映え」を活かせるか|日本の水族館をめぐる論点2019

2018年12月18日

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