日本の水族館をめぐる論点2023について
この連続記事は、水族館を経営的な観点から5つのテーマを「論点」として設定し、考察・紹介するものです。
普段楽しく利用する水族館のことを、ちょっとだけ深く考えてみるきっかけになれば幸いです。
なお、この内容はほぼ同じ内容をツイッターでもご紹介しており、サイトでの読み物用に若干の加工をしています。
論点1:日本の水族館の数は多いか
まずは、これまでも度々話題になってきた「水族館の数」の問題を考えていきます。
水族館の数をどのように計算するかは、当サイトでもご紹介してきました。
コロナ禍では、緊急事態宣言から始まる度々の営業自粛により、一時的には全国全ての水族館が休館を余儀なくされるなど、水族館の経営は大きな影響を受けています。
(参考:日本のすべての水族館が閉まった日(コロナ禍と水族館経営))
収入が閉ざされたことで過去の財務的な蓄えは削られ、漫然と経営の継続が危ぶまれた施設にとって、先行きの見えない経営環境は撤退の判断を後押しすることとなりました。
特に2021年には志摩マリンランドや油壺マリンパークなどのメジャーな「老舗」水族館が姿を消したこともインパクトの大きな出来事だったと言えます。
ヨコハマおもしろ水族館や山方淡水魚館の他、今後予定される丹後魚っ知館やマリホ水族館の閉館、また、東海大学海洋科学博物館の有料入館終了、むつごろう水族館の当面休館、カワスイの民事再生なども実質的な閉館の流れで、コロナ禍で惜しまれながら姿を消す水族館も記憶に新しいところです。
一方、コロナ禍では四国水族館、DMMかりゆし水族館、カワスイ、アトア、スマートアクアリウム、フォーチューンアクアリウムなどの中~大規模水族館や、幼魚水族館、びわこベース、みなとやま水族館など小規模ながら独自の水族館も登場しています。
今年は札幌での「AOAO SAPPORO」の開業も控えていますね。
こうした閉館・開館の動きは、水族館の新陳代謝でもあり、歴史を振り返ると、数多くの水族館が姿を消してきています。
開館から50年を超えるクラスは珍しいですが、閉館数としては極端に多いわけではありません。
コロナ禍での水族館の数の増減は、むしろ水族館の代謝力を再認識する事象と言えるかもしれません。
最近の傾向としての特徴は、デジタル技術を活用し、展示の視覚効果を高めたり(DMM、カワスイなど)、双方向的なコミュニケーション(アトア、フォーチューンなど)などを取り入れていることや、居抜き物件や商業施設内の必ずしも長期的な事業継続を前提にしない「フットワークの軽い」水族館も散見されます。
また、大型リニューアル(新設という方が適切かもしれませんが)となる「神戸須磨シーワールド(仮)」は、シャチの扱いや比較的高額な料金などが大きな論争となりました。
2024年開業に向け動物福祉や飼育の意義、自治体財産の活用方法、ユニバーサルサービスなど様々な視点から引き続き動向が注目されます。
さて、こうした動きの中で、やはり日本に水族館は「多すぎる」のでしょうか??
施設が多ければ利用機会が増え、経済を活性化させ、競争が新たな価値が産むと考えられる一方、激しい競争は集客目的で「エンタメ化」しやすい、競走のために経営資源を割かれてしまい「本来のコスト」が不十分となる、ことなどが懸念されます。
ここでの示唆は、単に展示の魅力があれば「教育」は不要だとか、来館者数が多いことが水族館の価値を決めるなどの考えは安易であって、水族館の存在意義も自然発生するものではなく、定量的・定性的に評価すべきということです。
施設数の問題は、この論点と向き合うことから始まるのであって、数が多い少ないという議論の前に、現状の理解を深めることが大切と考えます。
【参考】過去の論点(2019)
当サイトでは、2019年にも水族館をめぐる論点を13テーマにてご紹介していますので併せてご参考にしてください。
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