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日本の水族館をめぐる論点2019ついて
この連続記事は2019年の6月にまとめたもので、日本の水族館に関する様々な話題を「論点」として13のテーマで紹介します。
普段楽しく利用する水族館のことを、ちょっとだけ深く考えてみるきっかけになれば幸いです。
水族館ならではの生き物保全の道
前回の記事では、水族館における「研究」に焦点を当ててその役割をご紹介しました。
第9回は水族館における研究を活かした繁殖や保全活動について考えます。
なお、この記事は株式会社サンシャインエンタプライズが運営していた「いきものAZ」内の「いきものがたり」にて連載記事として掲載頂いた内容を、一部変更した記事です。
前回記事は下記をご参照ください。
ポイントその1:いきもの達を守る
研究を通じていきものの生態などを知ることは、希少ないきもの達を絶滅の危機から救うことにも繋がるかもしれません。
専門用語では「種の保存」や「生物の保全」などと呼ばれており、多くの水族館では、実際に施設内で様々ないきものを繁殖しています。
こうした水族館の機能は、大昔に大洪水からいきもの達を救った神話になぞらえて「ノアの方舟」に例えられることもあります。
特に、日本全国で初めて繁殖に成功した場合には、業界団体であるJAZAから「繁殖賞」を授与することができます。
よく動物園や水族館の出入口などにこんなマークが飾られていますので、ぜひ探してみてくださいね。
「希少」の定義は難しいですが、国際的な取引が規制される「ワシントン条約」や、日本の国内法である「種の保存法」などでのレッドリストに掲載されることが一つの基準となっており、都道府県独自のレッドリストなども存在しています。
例えば、「碧南海浜水族館(愛知県)」では、「愛知県レッドデータブック」に掲載されているいきものについて、基本情報や特徴などの他、見つけやすさなどを独自の視点で紹介しています。
単に希少である、珍しい、というだけでなく、自分たちの身近なところに生息していることや数が減ってしまった原因などを知ることは、私たち一人ひとりが保全のために何か行動を起こすための第一歩としても大切ですね。
ポイントその2:いきものを守る仲間を増やす
もちろん、水族館の力だけで環境を守ることはできませんし、水族館の研究や保全の取り組みも多くの方に知ってもらわなければ、協力の輪を広げることができません。
そうした観点から、水族館では「教育」の役割も重要と考えられています。
水族館には、子供から大人まで、普段は自然やいきものと接する機会の少ない方がたくさん訪れます。
そのため、そこでの新たな発見や気付きが、貴重な学びの場となっています。
一方で、多くの方にとって、文字を中心としたパネルなどは聞き慣れない言葉も多く内容が難しい印象もあります。
そこで、「マリンワールド海の中道(福岡県)」のように、写真を中心として身近な海の情報を伝えるようなコーナーをレストランの横に設けるなどの工夫をしている水族館もあります。
環境問題などへの対策の必要性が高まる中で、筆者の私は、この教育的な役割こそ、これからの水族館や動物園にとって重要なことだと考えています。
まずは楽しくて魅力的な展示を入口として、徐々に詳しい情報を伝えたり、自然やいきものに対する気持ちが高まっているタイミングだからこそ伝えられるメッセージを発信したりすることが、これからの水族館にとって大事なことだと思います。
ポイントその3:楽しみながら学ぶ
ここまで研究・保全・教育について紹介しましたが、やはりこれらを知ること自体を「目的」として水族館に来る方は多くありません。
そこで、その「きっかけ」を与える手段としての機能を「レクリエーション」として理解することができます。
最初から難しい話をするのではなく、まずは興味を持ってもらうために「親しみやすさ」や「楽しさ」といった要素が欠かせません。
逆に言えば、単に「楽しい」というだけではこれからの水族館の役割を果たすには十分ではないとも言えます。
こうした考えの中間的なものとして、「研究」そのものを「レクリエーション」として表現する、という方法も考えられます。
例えば、「すみだ水族館(東京都)」では、通常はバックヤードと呼ばれる水族館の裏側で行っているクラゲの飼育・展示を準備する様子などを、利用者が直接観られるような展示演出をしています。
こうした方法を上手く活用すれば、利用者にとっては普段見ることのない水族館の裏側を知る「楽しさ」がありつつ、同時に、水族館が「研究」しているということを自然に理解することができます。
最近では、スタッフの案内で水族館の裏側を楽しめる「バックヤードツアー」も増えてきています。
ただ観るだけでなく、双方向の会話があることで、いきものを観るときのポイントや水族館のこだわりなどを詳しく知ることができる人気のコンテンツです。
しかし、大量のお客さんが利用する水族館にとって、限られた時間・人しか体験できないことがネックとなります。
そこで、「美ら海水族館(沖縄県)」や「魚津水族館(富山県)」などでは、バックヤードコーナー自体を順路に組み込み、常にお客さんから観られる状態とすることで、より多くの方が水族館の裏側を知る機会を提供しています。
ただし、単に「観る」だけではその意義などを理解できないこともあるので、スタッフが常駐して解説することや、バックヤードを面白く伝える工夫が必要かもしれませんね。
水族館が、利用者の方にもっといきものを好きになってもらう工夫をすることで、利用者は、いきもののためにどんなことができるかを考える。
水族館が「ノアの箱舟」になるためには、いきもの好きの仲間を増やし、具体的な行動を促すという発想で仕組みづくりをすることが必要なのではないでしょうか。
二回連続で、水族館の機能やこれからについて簡単にご紹介してきました。
そこから、単に教育やレクリエーションなどをバラバラに考えるのではなく、「サービス」として一体的に捉えることの大切さが明らかになりました。
そこで次回は、水族館のサービス設計について考えてみたいと思います。
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