【8】水族館だからこそできる「研究」とは|日本の水族館をめぐる論点2019




この連続記事は2019年の6月にまとめたもので、日本の水族館に関する様々な話題を「論点」として13のテーマで紹介します。

普段楽しく利用する水族館のことを、ちょっとだけ深く考えてみるきっかけになれば幸いです。

水族館で行われる研究活動

水族館の社会的な役割を考える時のポイントとして、動物園や水族館では「種の保存」「教育」「調査・研究」「レクリエーション」の4つの目的・機能があると言われています。

この要素自体も、足りない、変化している、など色々な意見がありますが、ここではこの4つを基本にご紹介をします。

第8回は水族館における「研究」の役割について考えます。

なお、この記事は株式会社サンシャインエンタプライズが運営していた「いきものAZ」内の「いきものがたり」にて連載記事として掲載頂いた内容を、一部変更した記事です。

前回記事は下記をご参照ください。

【7】いきもの達の生活を支える水族館のお金の仕組み|日本の水族館をめぐる論点2019

2019年2月16日

ポイントその1:水族館における研究の歴史

以前第4回目の記事で「ヴァーチャル水族館」をご紹介しましたが、少なくても現状は、ほとんど全ての水族館で命あるいきもの達を生育・展示しています。

【4】水族館の歴史とマーケティングの変化|日本の水族館をめぐる論点2019

2018年12月25日

そのため、飼育を通じていきもの達の様々な生態や特徴を発見することができます。

そもそも、日本に「水族館」が誕生した当初は、大学などが「研究施設」として水族館を持つようなケースも多く、今でも京都大学や東海大学など一部の大学では引き続き大学付属の施設として水族館を一般公開しています。

こうした水族館の特徴から、水族館には「研究」の役割があると言われています。

具体的にはどんな研究が行われているのでしょうか?

最もベーシックなのは、水槽内での繁殖行動や成長の様子などを「論文」の形で文書にまとめ、学会や雑誌などに投稿します。

業界団体であるJAZAが発行する「動物園水族館雑誌」の見出しを観るだけでも、クラゲやペンギン、イルカ、アザラシといった水族館でよく目にするいきもの達に関する研究が並んでいます。

少し古い調査ですが、1975〜2004年の間に水族館で1,554件の学術論文が投稿されたというデータもあります。

さらに、水族館のノウハウを外に拡大し、自然の環境などに活用する研究もあります。

例えば、「新江ノ島水族館(神奈川県)」では、すぐ目の前に日本屈指の深い湾である「相模湾」があることから、深海・深海のいきものなどについての研究に力を入れています。

1954年に誕生した前身の「江ノ島水族館」の時代から「研究室」を設けるなど、長い研究の歴史があります。

新江ノ島水族館に行ったことのある方ならご記憶にあると思いますが、深海コーナーでは、特殊な水槽の中で真っ白なゴエモンコシオリエビや細い管が集まったようなハオリムシの仲間などが飼育・展示されています。

これは「化学合成生態系水槽」という深海の環境を再現しており、様々な技術が凝縮された世界初の展示となっています。

この展示環境を作る過程において、水中の成分の違いによる生存率の変化が明らかになるなど、展示と研究は密接な関係にあります。

ポイントその2:夢と現実を追う水族館研究

さらに、より現実的な成果としてご紹介したいのが、「美ら海水族館(沖縄県)」のイルカの事例です。

感染症等が原因で尾びれを失ったイルカの『フジ』を助けようと、美ら海水族館が大手タイヤメーカーのブリヂストン社と連携して「義足」ならぬ「義ヒレ」を開発し、その後にフジは再びジャンプができるまでに回復しました。

地道に基礎的な研究を進めるだけでなく、こうして課題に直面する目の前の命を救うための研究も水族館の大切な役割と言えます。

その一方で、ある意味で「夢」を追うような研究もあります。

例えば、「アクアマリンふくしま(福島県)」や「沼津港深海水族館(静岡県)」などでは、3億5000万年もの昔から姿を変えておらず「生きた化石」と呼ばれるシーラカンスの標本展示などを行っています。

インドネシアまで遠征しての調査研究をしたり、現地に保全施設を設置したりと、水族館の枠を超えるような本格的な研究活動を行っています。

こうした研究が生物の進化の歴史を紐解くきっかけになり、また、いつかは水族館でシーラカンスの生きた姿を観られる日が来るかもしれませんね。

ポイントその3:水族館ならではの研究環境

こうした意義が見出される水族館における研究ですが、一方で、野生環境との様々な違いなどからその意義を否定するような意見もあります。

もちろん、水族館での研究には多くの限界があることも事実ですが、逆に水族館だからこそ分かるような有利な部分もあります。

例えば、水族館では継続的に同じ個体を観察することができるため、研究の対象となるいきもの状態を「よく分かっている」ことが挙げられます。

そのいきものが、普段どんなものを食べていて、昨日に比べて今日は機嫌が良いのか、どういう泳ぎ方の特徴があるのか、ここ数週間で体重の増減があるのか、などなど、個体の個性もよく分かった状態で観察することができます。

いきものが何らかの特徴的な行動をとったときに、「普段の動き」が分かるからこそ、そうした特徴に気付くことができたり、他の水族館でも同じ状態を再現することができたり、といったことは、研究の質を高める上で大切です。

通常の研究でも特定の個体を追うことは珍しくありませんが、水族館ではより効率的・効果的に実施することができます。

こうした研究の繰り返しが、いきものや生育環境のことをさらに知ることに繋がり、また、水産業の発展などにも貢献することができると言えます。

次回は、これからの水族館を考えたときに、水族館における「研究」をどのように活かしていくか、という点を考えてみたいと思います。

【9】水族館はノアの箱舟になれるか|日本の水族館をめぐる論点2019

2019年2月16日

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