【1】水族館利用者の数や特徴を分析|日本の水族館をめぐる論点2019




この記事は2019年の6月にまとめたもので、日本の水族館に関する様々な話題を「論点」として13のテーマで紹介します。

なお、この記事は株式会社サンシャインエンタプライズが運営していた「いきものAZ」内の「いきものがたり」のコーナーにて連載記事として掲載させて頂いた内容を、一部変更した記事です。

水族館利用者の数や特徴を分析

皆さんは日本全国で毎年どれくらいのお客さん(以下、来館者)が利用されているかご存知ですか?

第1回は、水族館利用者の数や特徴について考えます。

そもそも「水族館」には定義が無く、何を根拠とするか自体も記事になるのですが・・、継続的に追うことができる数字として、日本の多くの水族館が加盟する「公益社団法人日本動物園水族館協会」(以下、JAZA)の情報を参考にご紹介します!

(2007〜2016年度の10年間、61の水族館を対象とした分析を行いました)

ポイントその1:3,000万人を超える利用者数

この10年間で年間平均約3,280万人が水族館を訪れており、2010年度以降は継続して増加傾向にあります。

日本で一番お客さんの多いテーマパークであるディズニーランドとディズニーシーの来園者数の合計は、過去最高だった2014年度でも年間約3,140万人ですから、この数字がいかに水族館の人気を表しているかがよく分かります。

なお、1水族館あたりの平均は約53万人で、これは皆さんの近所の水族館が全国的に比べて来館者が多いか少ないかの一つの基準になります。

ポイントその2:無料の利用者

ほとんどの水族館では、お客さんの年齢などによって入館料に違いがある「多段階価格」という形式が取られており、一般的なテーマパークなどよりも細かな設定がされていることも多いです。

「価格」の設計は、いわばマーケティングの基本であり、生き物達の日々の生活を支え、経営を続けるために重要なポイントとなります。

水族館では、小さなお子様や特別な時期などでの「無料」の来館者についても統計があります。

先ほどご紹介した年間平均約3,280万人のうち、なんと約430万人、つまり約13%は無料のお客さんです!

自治体が運営する公営の水族館では、4割以上が無料来館者という例も少なくないなど、来館者数のデータからも、生き物と間近に触れ合うことのできる水族館の公益的な役割も感じられます。

ポイントその3:季節による利用傾向

水族館では、たくさんの青々とした水槽や、イルカショーの水しぶきなどを目にすることができるため、多くの方にとって「水族館といえば夏!」というイメージだと思います。

実際に、どの時期にどれくらいの来館者が訪れているか、調べてみました。

予想通り、最も来館者が多いのは8月で、年間の約20%の来館者が集中しています

しかし、2番目に来館者が多いのは、7月や9月ではなく、実は5月です

つまり、暑いから水族館へ行こう、という行動の動機だけでなく、ゴールデンウィークなどでお休みの日が多いことも重要なようです。

なお、この2番目に来館者が多い月については、例えば

  • 志摩マリンランド(三重県):12月
  • 鴨川シーワールド(千葉県)、美ら海水族館(沖縄県):3月

など、水族館の事情によって多様性があります。

多くの水族館では、やはり冬場の11〜2月にかけて来館者の少なさに苦労している様子が数字でもハッキリとしました(この4ヶ月を全て足しても年間の20%程度)。

最近は、クリスマス需要向けのイベントもよく目にするようになりましたよね。

水族館は基本的に屋内完結型で、気温や天候に関係なく楽しめる施設特性のあるビジネスとも言えます。

経営学では、水族館のように施設や設備(いわゆる固定資産)を持って、来館者の有無に関係なくコストが発生する形態のビジネスを「装置型産業」と呼びます。

お客さんがいなくても、水槽は綺麗にしなければなりませんし、生き物達は毎日エサを食べますので、水族館の経営的には冬場は「もったいない」状態と言えるかもしれません。

しかし、こうした冬場の閑散期にメンテナンスや生き物達の健康管理を重点的に行うことなどもあり、「余裕」が水族館や生き物達にとって大切な場合もあるので、短期的な経営の効率性だけを考えるのは禁物ですね。

ポイントその4:地域ごとの来館者数

最後に、全国各地にある水族館で地域的な特徴があるかを調べました。

すると、やはり人口の多さなどの影響が大きく、この10年間の平均で関東地方では約33%、近畿地方では約21%と、過半数を占めています。

特に東京では、この時期に「サンシャイン水族館」のリニューアルや「すみだ水族館」のオープンなど、大きな水族館の動きがあったため、来館者数が2倍になっています。

ポイントその5:競合や伸び率

この結果から、少なくても東京では、リニューアルや新規オープンによって既存の来館者を奪い合うのではなく、新たなお客さんを掘り起こしているという水族館業界の特徴が見えてきます。

なお、伸び率に注目すると、東京や近畿地方だけでなく、実は北海道、北陸、九州・沖縄地方などでも来館者数は増加傾向にあります。

まとめ

今回は来館者数という水族館の最も基本的な指標を用いて、水族館という業界の構造を紹介してきました。

ただし、情報開示の問題から、今回はJAZAの数字だけを用いており、加盟していないたくさんの小規模水族館はもちろん、「仙台うみの杜水族館(宮城県)」や「ニフレル(大阪府)*」といった一部の大規模水族館の数字も含まれません。

*ニフレルは2018年にJAZAに加盟しています。

これらの水族館は、報道などから100万人を超える来館者が推定されており、それに加えて小規模な水族館の数字なども含むと、日本全国の水族館での来館者数は4,000万人ほどになっているかもしれませんね。

次回は、具体的な水族館の事例から、リニューアルの効果や水族館のビジネスモデルの特徴などをご紹介します!

【2】水族館のリニューアルの効果を分析|日本の水族館をめぐる論点2019

2018年12月11日

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