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日本の水族館をめぐる論点2019ついて
この連続記事は2019年の6月にまとめたもので、日本の水族館に関する様々な話題を「論点」として13のテーマで紹介します。
普段楽しく利用する水族館のことを、ちょっとだけ深く考えてみるきっかけになれば幸いです。
水族館におけるお金の仕組み
普段は楽しい場所・学びの場所などとして利用される水族館ですが、「経営」という目線で考えると、いきもの達の生活を支えるリアルな一面が見えてきます。
第7回はあまり解説されることのない水族館のお金の仕組みについて考えます。
なお、この記事は株式会社サンシャインエンタプライズが運営していた「いきものAZ」内の「いきものがたり」にて連載記事として掲載頂いた内容を、一部変更した記事です。
前回記事は下記をご参照ください。
ポイントその1:水族館経営を支える屋台骨
水族館にとって収入の中心となるのは入館料です。
皆さんが水族館に入る際に購入している「チケット」が、水族館の飼育や展示を支えています。
海外の動物園や水族館では、オンラインチケット購入のボタンのすぐ横に「あなたの利用が動物達の保全に繋がります」ということを大きく書いてあることが珍しくありません。
日本ではこうしたメッセージを目にすることがあまりありませんが、水族館の意義や役割を理解するきっかけとして、このようなコミュニケーションの方法はどんどん真似するべきだと思っています。
なお、筆者の私が行った46の水族館を対象とした分析(2007〜2016年度の10年間)では、水族館の収入全体における入館料の割合は10年間ほぼ一定で70%前後でした。
ここからは、この残りの30%である入館料以外の収入を深掘りしてご紹介します。
ポイントその2:お土産で長い関係づくり
代表的な収入源が、ギフトショップなどと呼ばれるお土産コーナーです。
旅の思い出になるお土産は、自分のためのコレクションや家族の絆の象徴、また、楽しかった記憶を友達などにもシェアできる大切なものです。
さらに見方を変えると、ぬいぐるみなどの「形」に残るお土産は、いきもの好きなお客さんにとっては大好きな種や個体に思いを馳せる対象となりますし、水族館にとっても、目にする度に水族館のことを思い出してもらうきっかけとなり、自宅に帰ってからも継続的に関係を維持するようなツールになります。
そう考えると、今はまだまだお子様向けのグッズが多いですが、水族館自体のターゲットが変化してきたことに合わせて、大人向けのデザインや機能を持った商品を充実させることは、水族館のファンにとっても、水族館にとっても必要なことだと思います。
ポイントその3:水族館ならではのレストラン
もう一つの代表的な収入が、レストランなどの飲食コーナーです。
大きな水族館では平均的な所要時間が2〜3時間になることを考えると、どんな時間帯に来たとしてもランチ・おやつ・ディナーのいずれかの時間に当たります。
ここでご紹介したいのは、レストランを通じてでも、自然やいきものの大切さを伝えることができるということについてです。
「アクアマリンふくしま(福島県)」では、食材として使う水産物について、世界の海から数が減っている種類ではなく、より持続可能な種類の魚を推奨する「ハッピーオーシャンズ」という取り組みを行っています。
具体的には、ブリやサバなどが「青信号」の魚としてオススメされており、実際にレストランで「サバの煮付け」などを楽しむことができます。
元々は「モントレー水族館(アメリカ)」の「シーフードウォッチ」などの同趣旨の取り組みに賛同したもので、海やいきもの達の問題を「消費」という具体的な行動と結びつけることは、より強力な「自分ゴト」になることが期待できます。
いきもの達を守るために行動をしたいが具体的な行動の機会がない、という方のためにも、ぜひこうした取り組みを日本中に広げていきたいと思っています。
ポイントその4:水族館ごとの工夫
その他にも、フォトサービスや特別イベントなど様々な収入源がありますが、水族館によってはパーティーや結婚式の会場として水族館のスペースを貸し出すようなサービスも行っています。
中でも最近増えているのは、数百円ほどで楽しめる「エサやり」です。
コイなどの魚類にエサをあげる際に、手を水中に入れて吸いつかせることで口の動きなどを直接感じられるような豪快なエサやりができる水族館もあります。
日本の料金体系は年齢による違いが中心ですが、海外の動物園や水族館では、追加料金を伴う入園チケットを買うと特別な解説やガイドをじっくり楽しむことができるなど、サービスによっても価格が様々な場合が一般的です。
楽しみ方によって価格が異なるという考え方は合理的かもしれませんね。
ポイントその5:水族館は専門家達が支えている
水族館の費用についてはお客さんにとってはあまり関係ところですので、ポイントを絞ってご紹介します。
たくさんのいきものを飼育している水族館では、動物やエサのための費用が多いと思われがちですが、水族館では、エサの準備をしたり、水槽を綺麗にしたりすることはもちろん、イベントの企画やショーパフォーマンスなど、たくさんの人が水族館の運営に関わっているため、実は費用の中で一番割合が高いのは人件費です。
その他にも、水族館では水中の環境を整えるために巨大な設備が動いているため、水道光熱費も大きくなりがちです。
ただし、いきものの確保については、希少性が高いものはお金で解決できる問題では無く、繁殖のための努力もますます重要になります。
いきものAZでも、動物園や水族館同士で動物が移動した話題で盛り上がる様子が時々見られますが、これまで以上に水族館での大きなテーマになっていくと考えられます。
ポイントその6:公営水族館の運営
今回はあまり詳しくご紹介しませんでしたが、とりわけ公営水族館の経営において非常に重要なものとして「指定管理料」があります。
これは、第6回の記事後半でご紹介した公営水族館が民営のノウハウを活用するための「指定管理制度」に伴うもので、大半の公営水族館では、運営経費の一部に税金が使われています。
このように税金を投入する場合はもちろん、民営であっても、水族館は命を扱う施設として、「レジャー」を超えた価値を提供すべき存在であると考えます。
そこで次回は、楽しさだけではない、水族館が果たす社会的な役割に注目します。
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