【4】水族館の歴史とマーケティングの変化|日本の水族館をめぐる論点2019




この連続記事は2019年の6月にまとめたもので、日本の水族館に関する様々な話題を「論点」として13のテーマで紹介します。

普段楽しく利用する水族館のことを、ちょっとだけ深く考えてみるきっかけになれば幸いです。

生き物がいない水族館ができる?水族館の今と昔

皆さんは、「水族館」がどれくらい前に誕生したか考えたことはありますでしょうか?

第4回は水族館の歴史を簡単に振り返り、時代の変化と将来の水族館の姿ついて考えます。

なお、この記事は株式会社サンシャインエンタプライズが運営していた「いきものAZ」内の「いきものがたり」にて連載記事として掲載頂いた内容を、一部変更した記事です。

前回記事は下記をご参照ください。

【3】水族館は「インスタ映え」を活かせるか|日本の水族館をめぐる論点2019

2018年12月18日

ポイントその1:日本で最初の水族館

水族館の歴史を紐解くと、世界では1853年にロンドン動物園(イギリス)内に作られた「Fish House」、日本では1882年に上野動物園(東京都)内に作られた「観魚室(うおのぞき)」が、それぞれ最初の水族館として紹介されることが多いです。

当時はまだ循環式の濾過装置もなく、かなり単純な水槽展示でした。

海や川に生息する生き物を飼育する、というだけであれば紀元前から世界中に記録があることを考えると、屋内型でガラスの水槽越しに水中の生き物を楽しむ、という今の水族館のスタイルに近いものが始まったのは、意外に最近のことなんですね。

この頃の水族館は万国博覧会などで集客目的の「見世物」としての意味合いの強いものや、水産技術の研究のために大学の付属施設などとして作られることも多くありました。

なお、今も現存する日本で最古の水族館は、魚津水族館(富山県)と言われており、1913年(大正2年)に開館し、1981年には日本で初めて全面アクリルガラスでできたトンネル水槽を導入するなど、歴史を感じる展示がたくさんあります。

ポイントその2:大型水族館時代の到来

その後、高度成長期には、観光開発などの流れの中で、全国各地にたくさんの水族館ができました。

諸外国と比べても日本の水族館の数はとても多く、日本が「水族館大国」と呼ばれる所以となっています。

この歴史の中で、水族館のスタイルは大きく変わりました。

今では、年間の来館者数が100万人を超える大型水族館が全国各地にありますが、多くの大型水族館に共通するのが、まるで海の中に潜ったような感覚になれる私たちの身長よりも遥かに大きな水槽の展示です。

その昔、水族館の水槽は文字通りのガラスが使われており、強い圧力や衝撃などがあると割れてしまう危険性や透明度の問題などもあって大きなサイズにすることができず、小さな水槽を並べるタイプの展示が主流でした。

しかし、樹脂製のアクリルガラスの登場により、大きく、様々な形に変形できることが可能になり、迫力ある水槽が私たちの心を惹きつけます。

私は水族館のこうした歴史の重要なポイントは、技術革新が支えるマーケティングの変化と考えています。

マーケティングとは、簡単に言えば、お客さんのニーズに応じて商品やサービスを提供することですが、展示手法の自由度が上がったことで、新たなお客さんを取り込んでいくことが可能になったのです。

その流れが特にハッキリしたのが、1980年代以降に続々と誕生した須磨海浜水族園(兵庫県)、葛西臨海水族園(東京都)、海遊館(大阪府)、名古屋港水族館(愛知県)といった大人も魅了する大型水族館の数々です。

どちらかといえば「子供向け」と言われることも多かった動物園や水族館ですが、少なくても水族館については、大人もターゲットとするような展開ができるようになったのです。

2010年以降は、「京都水族館(京都府)」や「すみだ水族館(東京都)」など、海に面していない都市型水族館でも新設が相次いでいるのが特徴です。

こうした都市部での大型水族館は、たくさんのお客さんのニーズに水族館が応えられているというサービス面での理由や、人工海水の技術が発達したことによって海から離れやすくなったことなどの理由があります。

このことも経営という観点から見ると、立地に関する技術的な制約が無くなったことで、純粋にマーケティング的な目線での出店戦略が可能になった、と言えます。

ポイントその3:未来の水族館?

さらに、2020年には「四国水族館(香川県)」や「DMMかりゆし水族館(沖縄県)」といった水族館の新設が予定されており、特に「DMMかりゆし水族館」については、ゲームや映像配信などを手がけるDMM.comのグループが運営する最新映像技術を用いた水族館として、注目を集めています。

アメリカでは、有名なナショナルジオグラフィック社が監修する「National Geographic Encounter」という水族館がニューヨークの街の中にありますが、ここは水族館なのに生き物がいない「完全ヴァーチャル」が一つの売りとなっており、スクリーン映像やVR装置などを使って、通常の水族館で再現できないような海中の世界を表現しています。

命ある生物を目にするからこそ感じられるメッセージもあると思いますが、生き物を飼育しない「水族館」という形も今後は増えてくるのかもしれませんね。

なお、デジタル技術の活用としては、日本でもアクアパーク品川(東京都)にガラス面がタッチパネル化された水槽があり、水槽内の生物に関する情報や能力を学ぶことができる展示がありました。

こうした直近の新しい水族館のほとんどは、株式会社などの民間会社によって運営されていることも特徴の一つです。

そこで次回は、この民営水族館の動きを中心に、民営の会社にとっての水族館、という点に注目します。

【5】民間会社にとっての水族館|日本の水族館をめぐる論点2019

2019年1月19日

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