【テーマ4】複雑に絡まる水族館の価格問題|日本の水族館をめぐる論点2023




日本の水族館をめぐる論点2023について

この連続記事は、水族館を経営的な観点から5つのテーマを「論点」として設定し、考察・紹介するものです。

普段楽しく利用する水族館のことを、ちょっとだけ深く考えてみるきっかけになれば幸いです。

なお、この内容はほぼ同じ内容をツイッターでもご紹介しており、サイトでの読み物用に若干の加工をしています。

論点4:労働問題にも繋がる水族館の入館料

国際的な情勢不安等から、電気料金をはじめ様々な物価が高騰している中で、水族館でも光熱費、飼料、建築関係などの負荷が大きくなり、収支を圧迫していることについて全国的にも報道が相次いています。

参考記事の例:水族館にも値上げの波光熱費やエサ代、ウクライナ侵攻で高騰

水族館の収入は、入館料収入を基本に、レストランやギフトショップでの売上をはじめとした付帯収入で成り立っており、施設特性に応じて指定管理料などもありますが、いずれにしても来館者を軸にしたモデルで、特に公営の場合は教育的なユニバーサルサービスの観点などから水族館の入館料引き上げは難しいと言われています。

公営水族館などでは議会の承認が必要などの事情もあり、政治家にとって人気公共施設である水族館の利用料を引き上げるインセンティブは低く、その割を食うのは、施設の改善されない生き物や、給与の上がらないスタッフであって、水族館の機能発揮を抑制する歪んだ構造にあります。

水族館における動物福祉の問題も大きな論点ですが、ここでは経営課題としての労働問題にも着目したいと思います。

今や水族館は人気の就職先であり、労働市場は供給が過多であるため、数少ない需要に群がることで需給バランスが偏り、市場原理の結果として、非正規契約が増えたり給与は低位で安定してしまっていまいます。

こうした構造は「やりがい搾取」などとも揶揄されることもありますが、水族館に技術が蓄積されない要因ともなるなど水族館側にも悪影響があります。もちろん個々の水族館が意図して「搾取」しているわけではなく、業界として解決すべき構造的問題と考えられます。

労働需要を変えるということは、仕事の内容を変えることも意味します。

水族館の経営の仕組みが変わり、様々な面でより高度な専門知を扱う場となる分、高い給与を得られる職種になることは、就職難易度を量的にではなく質的に上げることで供給を引き締めることを意味し、水族館のあり方を踏まえた労働市場の健全化が期待されます。

もちろん、最終的には求職側の変化も当然に必要となります。

仕事の内容次第で全ての職員が専門的な人材である必要はないですが、水族館が社会に対して高い価値を提供するには、飼育・教育・経営など各分野での高い専門性が必要ですし、当然それに見合った給与を得るべきですので、そのためにも、価格の引き上げなどでより多くの収益を確保する経営の仕組みが必要になります。

価格には一種のシグナル効果もあり、低価格自体が価値を毀損する懸念もありますので、これからの水族館(や動物園)は価格戦略が業界的な課題です。

この点、民営の動きが活発ですが、全国的にここ数年で度々の価格改定が見られます。きちんと対価を得ることで価値を高め、継続的な発展の流れを目指したいところです。

そこで、これから特に重要になるのが、水族館の利用者が「何のためにお金を支払っているか」の認識を変えることができるか、という点です。
可愛い生き物を見て癒されたい、家族で観光のため立ち寄りたい、などの利己的な目的で水族館を利用するのであれば、当然ながら「安ければ安いほど良い」という圧力は強くなります。
支払った対価が水族館を通じて自然環境の保護や飼育生物のより良い生息環境に繋がる、という実態と理解があれば支出の意思も変わってきます。
きっかけは生き物の可愛さ・面白さを楽しむことでも良いですが、行動の影響を認識する仕掛けが望まれます。SDGsの「つくる責任」「つかう責任」という概念も参考になると思います。

水族館の価格については自治体の市長が「安くて気軽に行けた方が良い」趣旨の発言をし、SNS上で話題になりました。

公営の水族館においては、経済的事情に関わらず利用できる機会を提供することは大切であり、入館料を一定抑制する意義も見出されます。

そこで注目されるのが寄付などによる第三者的な資金の調達です。次回は、日本の水族館や動物園でもコロナ禍で動きの増えた「寄付」について触れつつ、業界でよく言われる「きっかけ」とは何なのかを紐解き、最後にしたいと思います。

【参考】過去の論点(2019)

当サイトでは、2019年にも水族館をめぐる論点を13テーマにてご紹介していますので併せてご参考にしてください。

日本の水族館をめぐる論点2019まとめ

2022年2月27日

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