【テーマ3】情報発信のあり方は存在意義を問う|日本の水族館をめぐる論点2023




日本の水族館をめぐる論点2023について

この連続記事は、水族館を経営的な観点から5つのテーマを「論点」として設定し、考察・紹介するものです。

普段楽しく利用する水族館のことを、ちょっとだけ深く考えてみるきっかけになれば幸いです。

なお、この内容はほぼ同じ内容をツイッターでもご紹介しており、サイトでの読み物用に若干の加工をしています。

論点3:情報発信は水族館の存在意義を問う

ペンギンにクリスマスの衣装を着せてみたり、生物の行動を人間的に置き替えるなどの「擬人化」の問題、また、面白さや可愛らしさなどを目的にした生物の生態と無関係な行動の強要や、鯨類の上に乗る(踏む)などショーのあり方などは繰り返し論点としてSNSなどで話題になります。

社会的な疑義が高まる中では、これらの行為(情報発信)にどんな意味があるのかについて、少なくても水族館として「答え」を持っていることが一層求められると考えられます。

展示設計やパフォーマンス計画など組織的な手続きを踏む場合には比較的リスクを回避しやすいですが、SNSで現場スタッフが気軽に情報発信できるようになったことは、構造的に問題を生じやすい環境となっており、根っこの部分がブレないような人材教育や理念の明確化・浸透が有益となります。

水族館からの情報発信は、集客だけでなく生き物への関心自体に影響を及ぼすものであり、可愛さの過度な訴求が密輸の問題とも密接なペット化を助長するなどの指摘もある他、「教育効果」の裏返しとして、人間と生き物との間違った関係性の擦り込みも懸念される。感覚的な感情を再構成するべき場であるはずだ。

この点、水族館としては「真面目」な発信をしたいが、それではメディアに取り上げてもらえない・ユーザーに見てもらえない、といったメディアのあり方も度々論点として見受けられます。

タレントが笑いを取るためにペンギンプールに飛び込み、業界団体やテレビ局を巻き込む大きな話題となったことも記憶に新しいですね。

ただ、こうした「メディアが悪い」という嘆きは水族館業界に限らず、おそらくあらゆる産業で言われており、記者の無理解、読者の教育が必要、といったことはよく耳にします。

これは、第三者による表現となる「パブリシティ」の構造的な問題から避けがたく、正確性を犠牲に客観性を得ているとも理解できる。

視点の異なるメディアが、水族館の伝えたい通りの内容で伝えてくれることを期待するべきではありません。

経営目線での情報発信とは「ブランディング」の一環であり、短期的な集客や話題ではなく、個々の水族館及び水族館業界としてどんな施設として見られたいか、を戦略的に考える必要があります。

その意味で、水族館は多様であって然るべきですが、水族館業界が同じ目的を目指さないのであれば、一定の基準を設けて線引きすることも必要となってきます。

それは、世界の水族館が業界として取り組む自律的な仕組みであり、水族館の社会的な役割をビジネスモデルに組み込むためのスタートラインにもなります。

もちろん生き物に対する「可愛い」という感情を否定すべきでないし、娯楽や癒しに通ずる「レクリエーション」も水族館の立派な機能・役割の一つです。

しかし、変化する環境の中で生物を「消費」することの意義はより厳しく問われ、レクリエーション「だけ」を提供するのであれば存在意義に疑義も生じます。

「面白くてためになる」という概念は、水族館学の世界でも繰り返し問われてきましたが、これまで両者のバランスの必要性は収益上の論点が中心であり、許容される倫理的な水準も今と違ったことを踏まえる必要があります。

動物福祉への目などは明らかに変化している中で、「ためになる」は事業を行う最低基準と理解すべきと考えられます。

これは、これまでの水族館の社会的な存在意義を今日的に再定義することでもあり、今までの水族館業界に取り組みが不足していたからといって、水族館に存在意義が無かったと評するのは拙速でしょう。

一方、水族館がその役割を持続的に発揮するためにも、きちんと収支を確保しなければならず、そのためには一定の来館者数がなければならないことも事実で、エンリッチメントなどはその両面的な取り組みとしても期待できます。

次のテーマでは、利用者にとっても身近な「入館料」を中心に、水族館の収支問題を考えていきます。

【参考】過去の論点(2019)

当サイトでは、2019年にも水族館をめぐる論点を13テーマにてご紹介していますので併せてご参考にしてください。

日本の水族館をめぐる論点2019まとめ

2022年2月27日

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