私たちに癒しや楽しさを与えてくれる水族館。
海の中に気軽に潜ることは難しいですが、水族館であれば専門的な訓練をしなくても、普段は出会うことのできない生き物たちを眺めたり、触れ合ったりすることが誰にでもできます。
日本全国にたくさんの水族館がありますが、そもそも水族館は何のためにあるのでしょうか?
企業や自治体の活動にSDGsやサステナビリティが求められている今の時代にこそ、水族館が果たす役割が大切だと考えています。
今回は、そんな水族館の目的や存在意義についてご紹介します!
水族館の目的
まず大前提として、水族館は設置根拠となる統一的な法律が無く、様々な主体がそれぞれの根拠に基づき水族館が運営されています。
そのため、各水族館が目指すこと、目的はそれぞれ異なりますが、広い意味での共通した理念、考え方はどんなところにあるのでしょうか?
一例として、日本全国にある水族館が集まる業界団体である公益社団法人日本動物園水族館協会(JAZA)によれば、主として以下の4つの目的があると言われています。
- 調査研究
- 教育
- 種の保存、保全
- レクリエーション
これらの概念の歴史は古く、時々によって度々論争のテーマとされてきましたが、いずれも動物園や水族館で大切にされています。
以下では、最も基礎的な「水族館の目的」として、この4つの視点をご紹介します。
※なお、写真はイメージです。直接的に解説の内容と一致しているとは限りません。
その1:調査研究
私たちが目にする水族館の「展示」は、飼育員の皆さんによる「飼育」に支えられています。
あまり知られていませんが、水族館の裏側では、予備水槽や水質管理など、多くのスペースが飼育のために使用されています。
こうした生き物たちの飼育からはたくさんの学びがあり、水族館では様々な調査研究を行っています。
また、水族館のスタッフが川や海などのフィールドへ出て環境調査や生き物の生態を調べるなど、調査研究は水族館の内外で行われます。
今まで知られていない生態などを発見し、それを論文としてまとめて発表することや、水族館同士での勉強会・研究発表会なども開催されています。
深海の珍しい生き物など、飼育方法などが確立されていない生き物も多く、苦労も絶えません。
こうした調査研究の結果は、絶滅危惧種の繁殖や水産業の発展などにも役立つこともあるなど、水族館の仕事は私たちの生活にも間接的に繋がっているのです。
もちろん、水族館で飼育される生き物は、自然界の生き物とは様々な面で状況が異なるため、一定の制約の中での研究活動が行われます。
しかし、繁殖・出産の瞬間を観察することや、生き物の認知や感覚の能力を調べることは、継続的に観察できる飼育環境だからこそ結果を得やすい場合もあります。
このため、水族館自身による調査研究だけでなく、大学や研究機関などと連携するケースも多く見られます。
こうして調査研究された内容は、展示を通じて私たちが最新の研究内容を知るきっかけになったり、学生などを相手にした教育活動のテーマとなったりと、水族館で行われる調査研究は、ある意味で水族館の運営の最も基本的な機能として重要と言えます。
その2:教育
水族館では、教科書や映像などでは伝えきれないリアルな生き物の動きや躍動感などを得ることができます。
また、水槽の近くにある展示パネルなどでは、生き物の生態や秘密を知るヒントが書かれており、これを読んだ上で実際の生き物の様子を観察すると、とても勉強になります。
理科の授業は嫌いだった!という方でも楽しみながら学べるのが水族館の魅力です。
最近では、より教育的な要素の強いプログラムを用意する水族館も多く、水族館のスタッフの方々から普段知ることのできない詳しい解説をしてくれるサービスも増えています。
イルカショーなども、派手なパフォーマンスだけを売りにしてしまえば単なる「見せ物」になってしまいますが、ショーを通じてイルカの身体能力や認知能力などを伝えることができれば、そこには教育的な意義があります。
多くの水族館では小中学生の社会科見学などとして、一般の入館料よりも安い金額で校外活動の受け入れなどを行っています。
観るものは同じなのに大人と子供で料金が違うのには、こんな教育的な背景もあったんですね。
私たちは、実際に目にしたり、触れたりしないと共感を覚えることが難しい場合もあります。
そのため、普段は出会うことのできない生き物達の生きる姿を間近に観られる水族館の存在は、私たちの大切な自然や生き物を守ることへの意識を高める上でも、とても重要と言えます。
その3:種の保存、保全活動
先ほどご紹介した調査研究とも関連していますが、水族館では希少な動物などの飼育を通じて、生き物を絶滅の危機から守るための「種の保存」という取り組みも行われています。
気候変動や人間の活動によって生息地域が減ってしまったり、自然界では天敵から襲われることが多かったりする場合、水族館という安全な飼育環境で育成することが有効な場合があります。
例えばウミガメは、自然界では卵から孵っても大きくなるまでにたくさんの命が失われるため、水族館で卵を保護し、一定の大きさになるまで飼育した上で自然に戻す取り組みなどが行われています。
特に日本の場合には、川に住む生き物が絶滅の危機に瀕していることも多く、かつては学校などでも飼育されて身近だったメダカも今や絶滅が危ぶまれていると言われています。
川のコーナーは一見地味で足早に展示を流し見してしまうことも多いかもしれませんが、今度はぜひ足を止めてパネルの解説などにも注目をしてみてください!
また、水族館のあまり知られていない役割として、違法に国外から持ち込まれそうになったピラルクなどを緊急的に保護することがあります。
元の国に返すにも、引き取り手やコストの問題もあるため、水族館が命を守り、有効に活用をしているんですね。
水族館業界では、JAZAを中心としたペンギン等の血統登録を行う「血統管理」や、全国的にも初めて繁殖に成功した事例を「繁殖賞」として表彰する仕組みなどもあり、日本全国で切磋琢磨が行われています。
さらに、普段は単独で飼育されている生き物も、繁殖に影響のある時期だけは2頭以上で飼育するなど、日本国内はもちろん、世界の動物園や水族館とも協力しながら繁殖のための努力が行われています。
全ての生き物が野生に適応できるわけではありませんが、水族館での飼育から野生での保護が進んだり、絶滅危惧種が守られたりすることは、水族館の存在意義としてとて大切なことですね。
その4:レクリエーション
水族館にとってなくてはならないのが、「楽しい!」と感じるレクリエーションとしての役割。
研究や教育など、どんなに大切な活動をしていても、お客さんの関心を集めなければメッセージを伝えることはできませんし、必要な経費を確保できなければ研究もできません。
水族館の特徴は、レジャーとしての楽しさを提供しつつ、そこに学びがあったり、その裏側では様々な形で自然環境の保護に向けた取り組みなどを行なっている点にあります。
都道府県や市町村など、公営の水族館も多く存在しているのにはこうした背景があるんですね。
水族館は、こうした難しい存在意義のバランスの中で、より多くのお客さんを惹きつけるための努力を日々行っています。
大切なのは、レクリエーションだけが水族館の全てではないことを、水族館側はもちろん、利用者自身の側も理解した上で行動することではないでしょうか。
これからの水族館
今回ご紹介した4つの目的は、動物園や水族館の業界では古くから語られてきており、今でもその趣旨は受け継がれています。
しかし最近では、これらを「4つの目的」として固定するのではなく、より広く・柔軟に水族館の存在意義が議論されるようになっています。
4つの目的が掲げる内容が本当にその通りの実態になっているか、ということや、4つの目的そのものが「目的」として適切か、など様々な論点があります。
これらの「目的」を水族館が目指すべき姿を示す「ビジョン」として考えた際に、「4つの目的」の考え方も変化が求められているのかもしれません。
さらに、地域の生き物に関する展示を通じて歴史や文化を伝えることや、国際的な保護活動への参画など、水族館が果たしている役割も時代に合わせて変化しています。
これまで以上に水族館がグローバル化の影響を受けるようになる中で、水族館のあるべき姿も大きく変化していくことが予想されます。
その本質は、水族館でしか知ることのできない知識が的確に発信され、水族館でしか得られない体験を通じて私たちの感情や行動も変わり、水族館の外に暮らす生き物たちの繁栄や自然環境がより豊かになることにも繋がる、という点にあるのではないでしょうか。
まとめ
公営や民営に関わらず、私たちが支払う入館料やサービス利用料、ギフトショップで買い物したお金の一部は、生き物の保護活動など、水族館の目的を達成するための資金となっています。
水族館は高い!という声もよく耳にしますが、こうした水族館の多様な役割を考えると、納得ができるかもしれません。
初めは、楽しい!可愛い!という気持ちをきっかけとして、海や川に住む生き物たちに対して興味を持ち、寄付やボランティア活動などにも関わる人が増えると良いですね(^ ^)
当サイトでは、こうした水族館の今日的な存在意義を少しでも多くの方に伝えることができるよう、単なる展示の紹介に止まらない視点から、水族館の魅力をご紹介していきます!
追い込み漁により捕獲されたイルカを受け入れてはならない、という決まりについては水族館の立場としてどのような思いがあるか知りたいと思いました。
丁寧な解説でとてもわかりやすかったです。