論文:水族館経営構造の体系化と持続的発展の考察




ここでは、水族館.com の記事執筆をしている原澤の修士論文の概要をご紹介します。

以下の内容は、修士論文全体の内容を約2,700文字程度にまとめたサマリーとなっています(実際の修士論文に掲載されているエグゼクティブ・サマリーを一部改変)。

導入:水族館経営に関する論文の目的と構造

本論文は、水族館の持続的な発展を実現するために、水族館の経営構造を定量的・定性的に体系化し、具体的施策を実行する際の示唆となることを目的としている。

水族館経営というテーマは先行研究に乏しく、水族館の持続的発展を目的に、主として経営学の観点から水族館の経営構造を体系化した研究としては前例の無い試みである。

構成については、第一章及び第二章にて経営学における諸概念を水族館の業務特性に当てはめ、定量的なデータ分析や法律及び会計等の概念を総合的に鑑みることで経営構造を解釈している。これは、第三章での持続的発展に向けた方向性の主張や第四章での具体的施策が水族館の業務特性や論理的な根拠に基づくことの説明を目的としている。

第1章:水族館の歴史や法律、経営環境

第一章では、水族館経営を取り巻く基本的な経営環境について考察を行った。

水族館の歴史や法制度の概要、経営主体の多様性を整理した上で、市場環境としての寄付市場やエシカルな消費及び投資の動向から資金面でのニーズの示唆を得た。また、水族館の経営に関わる批判的意見を、経営リスクとして認識する必要性を指摘している。

第2章:水族館の仕事やビジネス構造、市場規模

第二章では、水族館の業務構造や顧客構造について、定量的・定性的な考察を行った。

第一節では、水族館経営を定性的に分析した。水族館での業務プロセスを経営的な観点から解釈し、各業務間の関連性を明らかにすることで、総合調整を果たす管理部門の重要性を指摘した。また、水族館の業務をサービス業として理解することで、サービス業に特有の要素である無形性・同時性・変動性・消滅性のそれぞれの観点から、経営改善への示唆が得られた。これは第四章での考察の基礎となっている。さらに、経済学の視点から、財の特性を踏まえると税投入の継続性に疑義が生じうることも指摘している。

第二節では水族館経営の収支構造を定量的に分析した。これにより、入館料以外の収入が継続的に伸び悩んでいる状況、主要な費用である人件費・飼育費・水道光熱費・イベント及びPR費の4項目が抑制されてきた一方で業務委託費等のその他費用が増加している状況などが明らかになった。収支構造については、この他にも、延床面積や公開領域の面積などの面積単位での効率性や、公営・民営の大きな区分及び所管別並びに指定管理制度導入の有無及び指定管理先の法人格など、経営主体の違いによる収支構造の違いについて細かな分析をおこなった。こうした分析によって、公営水族館は民営水族館に比べて収入面で課題があることや、これまで一度も定量的に示されたことのなかった水族館全体での市場規模並びに全国の公営水族館での税金投入規模が概算ながら示された。

第三節では来館者構造を定量的・定性的に分析した。ここでは、収支構造にも関係する無料来館者数の推移や月別の来館者数の割合から見出される一定の季節性を、水族館に特有の構造として明らかにした。また、来館者数の推移を地域別に分析することで、東京を中心に東日本でのシェアが高まっていることや、休館を伴う大型リニューアルに際して業界内での競合関係が一定程度生じることなどを指摘している。

さらに、定性的な観点からは、顧客が水族館の利用を決める際の意思決定プロセスや、顧客満足度の決定要因となるサービス品質評価の基準、水族館と顧客との間に生じる知覚的なギャップなどの概念について、水族館に特有のモデルとして独自の整理を行った。また、セグメンテーションやポジショニングの観点から、具体的な施策検討に当たって必要となる顧客属性や水族館の競合理解の考え方を提示している。

第3章:水族館での種の保存や動物福祉の重要性

第三章では、第一章及び第二章で明らかになった構造を踏まえて、水族館が果たすべき機能・役割について考察を行った。

水族館が果たすレクリエーション機能や教育的機能、経済的機能にも意義を見いだしつつ、経営環境の変化を踏まえれば、そうした観点だけでは持続可能性に疑義があることを指摘した上で、種の保存への貢献や動物福祉の実現に向けて取り組みを強化することの重要性を、経営リスクへの対応という論理によって主張している。これは、これまで主に倫理的な問題と認識されてきたこれらの取り組みを、水族館の経営問題として意識転換することの重要性を指摘するものである。

一方で、これらの実現には資金的・技術的な問題に加えて、水族館の飼育生物に特有の課題などもあることから、ここでは、国内外の動物園・水族館との連携や教育的効果の発揮について経営的な観点からその必要性や論理展開を整理した。その上で、種の保存や動物福祉の具体的な経営的意義として、経営資源の継続的な調達やキャッシュ・フローの最大化、ブランディング、展示の差別化などの観点から考察を行った。

とりわけ、教育的効果を評価する指標として、測定困難な抽象的な概念ではなく、具体的な行動レベルに転換することの有効性を指摘しているが、これにより、水族館内部で行われる「域外保全」だけでなく、その経営資源を媒介とした教育的効果や資金循環を通じた「域内保全」の実現を広く捉えることの有効性を論理的に説明している。これを踏まえ、水族館の社会的意義を「生態系保全のプラットフォーム」として再定義した。

第4章:水族館での戦略的な「寄付」の集め方

第四章では、再定義した社会的意義を発揮するための資金を確保する方法を考察した。

ファンドレイジングの実行については、顧客の関与度及び支出金額の観点から「三つの壁」の存在を指摘し、顧客の意思決定モデルに基づき段階的な対応の必要性を提示している。特に、業務プロセス全体を見直す販売戦略の必要性等を指摘し、現状のギフトショップや情報発信のあり方の問題点を明らかにした。併せて、公営水族館における税投入の継続性への疑義に基づく自主財源確保の必要性や、指定管理者制度のあり方についても考察している。

収益力の改善に向けては、サービス業に特有のマーケティング要素を踏まえ、有形・無形を問わず全ての顧客接点をサービス・プロセスとして整理し、顧客の「価値」を創出する観点での「サーバリュー・フレームワーク」という新たな理論を考案した。施策の例として、不可視領域の活用や従業員の直接的な接触の重要性などを指摘している。

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